丹沢ヒメオオ探検記(2019.9.2)

9月にもなると、いよいよ秋が迫ってきたなと感じて少しもの哀しくなってしまいます。
真夏に活動していたクワガタ達も段々と勢いが弱まってきたところではあるのですが、この時期に活動真っ盛りとなるクワガタが居ます。

それが今回の狙いである、ヒメオオクワガタ(Dorcus montivagus)です。

ヒメオオクワガタはその名の通りオオクワガタと同じDorcus属のクワガタですが、見た目の趣はだいぶ異なっていて、前胸が広くていかつい印象を与えるオオクワガタに対し、全体的に線が細くてどことなく高貴な印象を与えるクワガタです。

また、その生態も特殊で他のDorcus属のように樹液やライトには集まることがほとんど無く、かつ高山性のクワガタであることから、昼行性でヤナギ類やダケカンバ、ハンノキに集まって枝をかじって吸汁するという習性が発見されるようになるまでは幻のクワガタでした。

しかし、この習性が知られるようになってからは環境の整った個体数の濃い場所へ行けばそれなりに見ることのできる存在になったようです。

とはいえ、僕はまだその姿を確認したことが無かったので狙ってみることにしました。

ヒメオオクワガタの有名な生息場所はは福島県桧枝岐村ですが、僕の住む神奈川からは遠いので遠征レベルの採集になってしまいます。
少し調べると、丹沢にもヒメオオクワガタが生息しているらしいことが分かったのでまずは地元から攻めてみることにしました。

ただ、丹沢には桧枝岐のようなヤナギが生えている林道は無いのか、登山道を歩いている個体を発見したといった情報しか出てきません。
唯一、ヤナギが生えている環境で採集したという採集記を読んだので、植生図などを調べてみたのですがヤナギが生えているような場所はどうも見当たらず。
仕方がないので、登山道沿いを歩く個体をひたすらルッキングで探すという無謀な採集を試みることにしました。

とはいえ、ヒメオオクワガタの種小名である「montivagus」は「山を徘徊する」という意味のラテン語なので、あながち間違った探し方ではないような?(笑)



丹沢は「丹沢大山国定公園」という名称で国定公園に指定されている場所です。
国定公園とは、「日本を代表する傑出した自然の風景地」である国立公園に対して「国立公園に準ずる優れた自然の風景地」として指定された都道府県が管理している公園です。
したがって、国立公園同様に「特別地域」や「特別保護地区」といった動植物の採集などに関して規制を設けた区画が存在しています。
特に特別保護地区では昆虫の採集、捕獲は一切禁じられているので採集に行く際は気をつけないといけません。


今日訪れたのは丹沢の西の方、山梨県との県境にある山です。
しかし、当日の朝に行こうと決めて準備を始めたために現地に到着したのは14時ごろ。
キャンプ場の駐車場が登山客向けに500円で利用可能だったので急いで借りる手続きをします。

対してメジャーでもない場所にこんな時間に登山をしに来たという客が来ることは無いのでしょう。
事務所の男性には若干いぶかしげな感じで対応されました。(笑)

ともかく、駐車場から登山道入り口までは2キロほどあるので急ぎます。

登山道へ向かう道沿いの沢

登山道へ続く道は沢沿いになっていてこのあたりを探してみても何か生き物がいそうですが、今日は時間がないのでスルーしました。

行き止まりから見た沢

もくもくと進んでいくと登山道の入り口があると思しき場所へ到着し、2手に分かれた道があったのですがそのどちらにもロープが張られ看板が掲示されています。
近づいて読むと、水道局の関係者以外立ち入り禁止といったことが書かれていました。

もう一度手元の地図を確認してみたのですが、やっぱりこのあたりに登山道があるはずなんですが………
かなり迷ったのですが、ここまで来て引き返すのも馬鹿げているので二手に分かれた道の真ん中にある急な斜面を登ることにしました。

これがなかなかしんどくて、かなり足腰に来る。(笑)
道中の写真を撮る余裕もないくらいの角度で、長竿を杖にして這いつくばるようにして何とか登り切り、ようやくなだらかな場所まで出ることができました。

登り切った場所

大きなサルノコシカケを発見したのですが、あまりの疲労に思わず腰を掛けたくなります。

サルノコシカケ

それに時間も心配になってきました。
今既に15時半ですが、目標の山頂までは残りの標高が300mほどあります。
でも、まだスギの林からも抜け出していないしせめて雰囲気をつかめるまでは、と続けることにしました。

ようやく表れはじめたブナ林

すると、標高1200mを超えたあたりから徐々にブナを中心とした広葉樹林に移行してきて、雰囲気が出てきました。
おなじみのセンチコガネにも出会えて、虫の気配も感じはじめます。

センチコガネ(Phelotrupes laevistriatus

しばらく上るとちゃんとした登山道にも合流して、もう山頂は近そうです。
登山道にはヒシバッタ科のバッタもいました。

ヒシバッタ科(Tetrigidae)の1種

そして、16時15分にようやく山頂へ到達しました。

山頂のベンチ

山頂付近にはそれなりに大きなブナの倒木や立ち枯れがいくつかあったので、おにぎりを食べながらヒメオオが付いていないか探します。

ブナの倒木

道の本当にすぐ脇にあった倒木を見てみると、、、



え!!??
なんかクワガタついてるんですけど!!(笑)

(この時は)あっさりヒメオオの♀を手に入れてしまったと、すっかり興奮してしまい。

もう満足したし暗くなる前にとっとと帰ろうと、急いで登山道を下りました。


水のない沢のような場所沿いに下りました。
ここも、石をひっくり返したりしたら面白いゴミムシが見つかるんじゃないかと思ったのですがスルー。
しばらくして、舗装された道へとつながりました。

舗装された道

ここで地図を確認してみたのですが、どうやらさっき僕が入ることを諦めた立ち入り禁止の道になっているような気がします…
そのまま進むと案の定さっきの場所に出たので、やはりさっきの場所が登山道入り口であっていたようです。
だったらあんな辛い斜面登らなかったよ…(泣)



さて、肝心のクワガタなんですが、家に帰って図鑑と比べてみると…………
コクワガタの♀っぽい!!
いやあ、正直ヒメオオとコクワの♀の違いなんてちゃんと分かってなかったのですよ。

(どう見ても)コクワの♀

しかし、あの苦労を徒労に終わらせたくない僕は、敢えて自分の中で結論付けることはせずにブリードして次世代の雄を見るまで先延ばしにすることにしました。


というわけで、正真正銘のヒメオオを目撃するまでは僕の探検記はまだまだ続きます。。。



参考文献:
土屋利行 (2014). BE-KUWA No.51, p12-13. むし社
丹沢大山総合調査団 (2007). 丹沢大山総合調査学術報告書. 平岡環境科学研究所
神奈川県自然環境保全センター (2018). "自然公園法について". 神奈川県ホームページ.  http://www.pref.kanagawa.jp/docs/f4y/06jigyousha/shizenkouenhou.html, (参照 2019-10-02)
総務省 (2014). "自然公園法". e-Gov. https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=332AC0000000161#B, (参照 2019-10-02)